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13. 100円札事件 小学4年生の授業中、教室に野良犬が入ってきたことがあってね。突然の出来 事で騒然となったんだ。その野良犬が糞を落としたから、なお大変。「キャー !」みんな席を立ち上がった。もはや先生の声も届かない。と、その時だった。 女の子が、机の足元にかけてあった雑巾を手にしたと思ったら、その糞をふき 取ったんだ。 驚きだった。みんな静かになった。びっくりしたんだ。そして、思いっきり感 動した。僕がガツンと殴られた瞬間だった。 その女の子は、男の子たちからイジメられていた子だった。学級費が払えない。 学用品の配給を受けている…。いつも同じ服を着てるから、臭う。「臭い、あ っちに行け!」と罵声。給食当番になると聞こえよがしに「あいつが触ったパ ンは。食べるな」と、わざとヒソヒソ話。残酷だった。僕といえば、結局、い じめた側に居たのかも知れない。何もしてやれなかった。男の子たちに注意す ると「ふん、真面目ぶって」と応酬されるままだった。 ある日、彼女は、いじめている男の子たちを、校舎の裏に連れて行った。そし て、履いていた雨靴を脱ぐとね、その中に隠していた100円札を1枚ずつ取 り出して、配り始めたんだよ。お金で友達になろうと、思ったんだろうか。僕 は、見ていた。驚いて見ていた。結局また、何も出来なかった。弱虫だったん だ。いじめていたのと、同じなんだ。 彼女には、野良犬の気持ち、のけ者にされる気持ちが、誰よりわかったんだろ う。だから、だまって糞をふき取ってあげたんだ、きっと。 あの光景は、今も痛い。そして何もしてあげられなかった自分への憤りでいっ ぱいになる。今更だけどね。恥ずかしい。 今、思う。勝手だけど。彼女は、本当の優しさと強さを持っていたんだと。い じめさせている、その優しさ、強さだったんだと。『Sさん、ごめんね、何も できなくて…』 ♪ 畑を打つおばあさん 死んでしまったら どうしよう 私は また 捨て猫になってしまう 「すて猫」より
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