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11. 裸電球 薄暗い部屋だった。太陽が眩しい日なんか、急にトンネルに入ったようで、真 っ暗って感じの部屋だった。子供だった僕の記憶には、全体の家の形がどうな っていたのか、まったくつかめなかった。家と家、というより隣同士の部屋と 部屋がトタン屋根でくっつき合っていて、どの部屋が誰の家なのか、わからな い…そんな様子だった。僕は母ちゃんに手を引かれて、その家と家との狭い隙 間を、いくつもの玄関を横切り、手で掘ったような水路?をまたぎなら、つい ていく。その間、母ちゃんは何人もの人に頭を下げていたよ。ほとんどの部屋 が開けっ放しでね。そこに色んな人の姿。互いに見えて見ぬふりがマナー。 たどりつく薄暗い部屋。そこは母ちゃんの姉さんの家だったんだ。玄関らしき 黒い戸を、ガタガタと開けると、畳1枚ほどの土間。セメントで固めた手作り の小さな流し台。部屋は、やたらと床が高く…広さは、4畳くらいあったのか なぁ。裸電球がぶら下がっていた。いつも布団が敷いてあって、おばちゃんは その中だった。心臓が悪かったらしい。おばちゃんの立ち姿を僕は知らない。 おばちゃんの旦那さんは、小柄で、まるで浪曲師のようなダミ声。眉間にくっ きりとシワを縦に刻んだまま、顔の筋肉に力を入れて笑う人だった、年中、無 精ひげで真っ黒。僕にはいつも笑顔の人だったよ。肌着姿で、シャカシャカと 動き回るその背中。一生懸命頑張る人、という印象だった。僕は、このおばち ゃんの家で、よくスイカを食べたよ。おばちゃんの好物だったのかなぁ。母ち ゃんのお土産だった。母ちゃんは、よくおばちゃんに会いに行ったよ。心配で 仕方なかったんだろうね。体のこと、暮らしのこと。 小学校からの帰り道。そこいらへんに貼り散らかしてあった、ベントナム戦争 の白黒写真。『へーっ、これがナパーム弾っていう爆弾か…』アイスキャンデ ー屋さんの前にさしかかった時だった。向こうの通りに数人の大人たち。みん な男。そしてよく見ると、ひとりは僕の親父。何かを乗せた戸板を運んでいる。 国旗入場のスタイルで。なんとも不思議な光景だった。 後から知ったんだけどね。あのおばちゃんを、みんなで運んでいたんだよ。お ばちゃんの顔まで毛布でくるんで。死んじゃったんだ。 おばちゃんの家は狭くて薄暗かったけど、母ちゃんと話をする姿、そして、そ の暮らしは、どこまでも温かく明るく輝いていた、と僕は強く、強く言いたい。 ♪ 肌色って どんな色 よーくよーく 見てみたら いろいろあって すてきだね 「色えんぴつ」より
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