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8. 力道山 僕の〈昭和〉は、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、自家用車…いろんな文明が登場し、〈暮ら し〉を変えて行く時代だった。近所の斉藤さんちに洗濯機が来たってんで、見に行った よ。グルグルと洗濯物を絞るローラーとハンドルがたまらなく面白くてね。大きなおも ちゃみたいでね。やらせてもらった。実に楽しかった。 冷蔵庫が我が家に来る日。朝から冷蔵庫で頭はいっぱい。下校時間が待ち遠しくてしょ うがなかった。家に帰り着くやいなや、冷蔵庫へ直行。扉をあけて、頭を突っ込む。 『あぁ、冷蔵庫!』あこがれの〈氷〉が我が家で出来る。コップに砂糖水、箸を一本入 れて凍らせて、アイスキャンデーの出来上がり! テレビにいたっては、もう、それは魔法の箱。カチャカチャとまるいチャンネルを回す。 少しでも画面を大きく見たいと思ったのかなぁ。画面に四角いレンズをぶら下げてあっ たよ。 夕方、僕ら家族みんなで、テレビを買った斉藤さんちに出向く。「おばちゃーん、テレ ビば見せて下さーい」夕ご飯の真っ最中でも「はーい」って明るい返事。みんな優しか った。当たり前のように優しかったよ。さぁ、ゴールデンタイムはプロレス。我らがヒ ーロー、力道山。夏場、おばちゃんたちはシミーズ姿。おじちゃんたちはステテコ。僕 ら子供はパンツ1枚。観戦して、みんな興奮してくるとね、バタバタと、うちわでテレ ビを扇ぐように応援するんだ。相手のアメリカ人、フレッド・ブラッシーが、反則技を 使うんだよ。そして、噛み付く!力道山の額から、血が噴き出す!真っ赤に流れる!見 えたんだよ、真っ赤に。白黒テレビなのにね。 開放的だったよなぁ。夏場は、どの家も、家中の扉や窓を開けっ放しで、蚊帳を吊って 寝ていたからなぁ。家に鍵なんて無いのと同じだった。そんな暮らしが〈普通〉だった んだよ。 誰かが病気をすると、近所の誰かが、すぐお粥なんかを作って持って行く…みんな優し かった。ボランティアなんて言葉、無かった。無用だったんだね。ボランティアって言 葉、この日本から消えてしまったらいいのにね。
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